弁護士の深井剛志、元地下アイドルの姫乃たま、漫画家の西島大介の3人が共著という、一風変わった書籍が発売された。タイトルは「地下アイドルの法律相談」。地下アイドルを巡る契約や法律の問題が世間を騒がせることが増えている昨今、「少しでも地下アイドルにとって助けになるように」と、企画されたのだという。
今回VIDEOTHINKでは、著者の1人である西島大介のインタビューを企画。西島は過去にでんぱ組を生んだ秋葉原のライブ&イベントスペース「ディアステージ」のシャッターにイラストを描いたり、姫乃たまとのアイドルユニット「ひめとまほう」として活動したり、アイドルグループ「迷ゐゴ」をプロデュースしたりと、アイドルシーンとの関係が深い。そんな彼に、同書を作ることになったきっかけや、地下アイドルと法律の関係、“地下漫画家”に移行していることなどについて、話を聞いた。
アイドルビジネスの闇を暴く“告発の書”にならないように
--同書を作ることになったきっかけや経緯を教えて貰えますか?
まず日本加除出版株式会社編集部の大野さやかさんから深井さんに依頼があったそうです。そこで深井さんから「現場のことを分かる人に関わって貰いたい」という話があり、姫乃さんにオファー。イラスト、マンガを入れようという話が出て、姫乃さんが僕を紹介してくれた、という流れです。
--同書は「第1章 地下アイドルと契約書のはなし」といったように、9つの章と最終章の、10章に分かれた構成になっています。西島さんが担当されたのはどの部分になりますか?
表紙のイラストや、各章の冒頭に掲載されている事件、問題などの事例漫画の制作を担当しました。編集部から事例のリストが送られて来て、それを原作に漫画化するという役割ですね。編集部からの資料だと、それぞれバラバラのアイドルが体験した、バラバラの事例でした。でも読みやすさを考えると、キャラクターを一人立てて、個別の事例をまとめて経験することで成長していくような物語性があった方が、法律の専門外の読者にも届くんじゃないかなと思って、本に載っているような構成になりました。ただそうしたことで、主人公の夢乃チカが何度も酷い目に遭うことになってしまったんですが。結果として、共著という形で参加することになりました。
--漫画を描く上で気をつけたことはありますか?
事例そのものが特定できないよう、キャラクター造形などが一致しないようにしました。特定されるように描くと、単に「あの事件はヤバかった」「あいつはヤバかった」で終わり、読み物としては失敗になると思うので。それからアイドルもファンも一緒くたにして、「アイドルカルチャーそのものがヤバイ」という風に見えるような描き方にしないようにもしました。つまり「アイドルビジネスの闇を暴く」といった“告発の書”じゃなくて、適度なフィクション性による汎用性を心掛けました。あとは多くのトラブルに見舞われる主人公になるので、それにへこたれないタフな女の子をキャラクターとして設計した、というところですね。
本当に法律に全てを守られた表現を見たいのか
【アイドル業界】ライブや握手会が〝消滅〟それでも生配信はノーギャラ?コロナ禍で浮き彫りになったアイドルの〝グレーな契約問題〟|#アベプラ《アベマで放送中》
--発売してみて、反響はありましたか?
そうですね、「AERA」などの雑誌に取り上げられたリ、AbemaTVに深井さんが出演したりと、反響は大きかったと思います。僕が普通に漫画の単行本を出しても、こんなに取材が来たりはしないですからね。反響は大きいのですが、まだ重版には至ってないようです。やっぱりコロナ禍の影響があって、なかなかイベントやサイン会などの“現場”を作れないことが大きいのかなと。現場がなくて困っているのはアイドルも同じですが。
--すぐに売れるわけではなく、例えば何か今後アイドルに事件が起こるたびにメディアに参照されるなどして、徐々に売れていくタイプの本なのかもしれないですね。
センセーショナルな本ではないですからね。当初は被害者に取材して“実録的”に作る、という案も編集部内ではあったそうです。僕個人は、センセーショナル過ぎる企画には関わりたくない、と考えています。そういう危うさを持ってる企画と感じ、当初は「断ろうかな」と思っていました。僕に上手くハマらなければ別の方の方がいいのかなとも。でも編集部の方針も納得できたし、深井さんも「本を読んでアイドルのことを嫌いになっちゃったら意味がない」と仰っていたそう。姫乃さんも覚悟を持って関わっていると思います。普遍性を求める本だとわかり、参加することになりなりました。
--この本を出すことによって、アイドル業界をより良くしたい、ということですね。
でも難しいですよね。観客目線で考えると、わざわざ地下のライブハウスに潜ってまで、本当に法律に全てを守られた表現を見たいのか、という問題もあります。やっぱり荒削りで、地上では見ることのできない衝撃とか体験を求めて観に行くものだと思うので。基本的に僕は、法に縛られない表現っていうのは好きなんですよね。だから、人権の問題を横に置いて、表現論的に危惧する読者もいるだろうなとは想像できます。「こんなこと言っちゃったら現場がつまんなくなっちゃうよ、もっとヤバイものを見たいんだけど」っていうファンもいるはずだと思うんですよね。でも、そのファン心理が、現状の問題のある状況を招いている側面もある。理屈で考えるなら、地下アイドルの側が、法律を盾にした当たり屋みたいなことも理論上はできるわけじゃないですか。例え法律が変わったとしても、人間関係や社会が、全て魔法のように良い関係になることはないから、最低限の小さな一歩としてこの本があるのだろうなと思います。
アイドルは、漫画家でいえばアシスタントの立場に近い
--漫画家としての立場から見て、本書に書かれているような法律の問題をどう捉えましたか?
思い当たる節がいっぱいありました。漫画家でも音楽家でも、フリーランスならヒントになることがたくさん書かれてるんじゃないでしょうか。アイドルは基本的にはパフォーマンスをすることが仕事なので、曲の権利を持っているわけじゃないですよね。これって漫画家でいえば、アシスタントの立場に近いのかなと思いました。背景を描いたとしても、そこに著作権は発生しないので。それと、僕は最近は“地下漫画家”になり過ぎているので、運営目線でもとても参考になりました。
--というと?
今年に入ってからこれまで出版された自分の漫画の権利を整理して、電子書籍に関しては自主配信を行っています。漫画を描くことと同時に、それを運用してビジネス化することが仕事になっています。だからクリエーターという意味ではアイドルの立場も分かるし、同時に運営する側の気持ちも分かる。今の僕は、アイドル自身が運営化したような状態です。でも、セルフプロデュースができるのならそれは厳密な定義としてはアイドルではないのかもしれないけど。
--なるほど。セルフプロデュースのアイドルグループはなかなかうまく行くケースは少ないようですね。キャパシティーオーバーになりやすいみたいで。
難しいですよね。例えば僕が運営になるとしたら、アイドルにそんなにギャラは払えないと思うんですよ。商品をヒットさせようとしたら、できるだけコストを下げて、できるだけ高く売るということになるので。でも逆に僕がアイドルなら、そんな仕事には乗れないぞ、とも思うだろうし。こういう両方の目線を10代で持てるかと言うと、無理だと思うんですよね。だから明確な答えというのはないけど、でもちゃんと考えるきっかけをくれる本になったとは思います。
<後編へ続く>
■地下アイドルの法律相談
「地下アイドルの法律相談」
深井剛志・姫乃たま・西島大介/著
2020年7月刊 1,760円 (税込)
日本加除出版
アイドル活動の助けになりたい
地下アイドルを巡る問題のなかで、当事者の子たちが「もうどうにもできない」「こうなったのは自分が悪いんだ」と身動きが取れなくなってしまうようなケースが多数あり、「そうじゃないよ!解決方法はたくさんあるよ!」ということを伝えたいという想いから本書は誕生しました。
本書によって、一人でも多くの地下アイドルの子が視野を広げ、地下アイドルとして輝き続けることを願います。
■吉田豪×深井剛志×姫乃たま「地下アイドルはなぜトラブルに巻き込まれるの か」『地下アイドルの法律相談』(日本加除出版)刊行記念
日程 2020年10月9日(金)
時間 20:00~22:00
出演 吉田豪(インタビュアー・コラムニスト)、深井剛志(弁護士)、姫乃た ま(ライター・元地下アイドル)
場所 オンライン配信
入場料
配信参加 1,500円(税別)
配信参加+サイン本 1,500円+『地下アイドルの法律相談』1,600円(ともに税 別)※イベント後発送
詳細はこちら(http://bookandbeer.com/event/20201009_chikaidol/)。
■西島大介(にしじま・だいすけ)
漫画家。2004年早川書房より『凹村戦争』でデビュー。ベトナム戦争を描いた長編『ディエンビエンフー』は小学館から12巻を刊行するも掲載誌休刊のため未完となったが、双葉社へ移籍し2018年に『ディエンビエンフー TRUE END』全3巻をもって完結。2020年に個人電子出版レーベル「島島」を設立。著作の管理と運用、電子書籍化をせっせと行う。新装復刊と新刊を含む『世界の終わりの魔法使い』シリーズ全6作完結プロジェクトが、2020年11月末より駒草出版でスタート。
https://twitter.com/dbp65
https://daisukenishijima.jimdo.com/
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