『EX大衆 2011年09月号』に掲載されたグラビアアイドル特集記事の岡島執筆部分に一部加筆修正を行い転載します。
90年代以降のグラドルの歴史をざっと簡略化して振り返り、月刊シリーズの宮本和英さんにインタビューをしています。
約2年半前のものですが、「#グラドル自画撮り部」といった新しいグラドルのムーブメントが起きている今だと、また違った読み方が出来る気がします。
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かとうれいこから吉木りさまで、その歴史を総まくり!
さらば、グラビアアイドル! ~それでも彼女たちは復活する~
コンビニの本棚を見渡せば、AKB48のメンバーが表紙を飾る雑誌がズラリ……。正統派にして国民的アイドルたちは、あらゆるジャンルを席巻しグラビアアイドルたちの“領域”にまで踏み込んでいる。ながらく青年誌や漫画誌の“顔”だったグラビアアイドルに、明日はあるのか!?
歴史的グラドルを振り返りながら、その行方を検証!!
●グラドルが生き残る道は!?
2011年、グラビアアイドル業界はかつてないほどの大不況に見舞われている。雑誌の表紙やグラビアのほとんどをAKB48のメンバーが席巻し、グラビアを活動の主体に置く“グラドル”は、ここ2、3年でほとんど世間的なブレイクを果たしていない。業界の新陳代謝が止まってしまった状態なのだ。
「グラビアアイドルの起源は1970年代半ばに活躍したアグネス・ラムと言われています。そして80年代から90年代初頭に掛けて堀江しのぶ、かとうれいこ、細川ふみえが登場し、94年には雛形あきこがブレイク。その後に優香が続き、00年代にはほしのあき、若槻千夏、小倉優子、MEGUMI、熊田曜子など、数々のグラドルがブレイクしました。けれど今はその流れが途絶え、グラビアが『芸能界の入り口』としてはほぼ機能していない状態です」(グラビア誌編集者)
昨年はAKB勢を除いて知名度を上げたのは吉木りさだけという、もはや死に体のグラドル業界。そこに掛ける予算もかなり削られているという。
「業界が盛り上がっていた03年辺りでは、写真集とDVDをそれぞれ別々に撮影し、150万ずつで300万。けれど今は合わせて100万しか予算が出ない状況です」(DVD制作会社社員)
いったい何故ここまでグラドルシーンは衰退したのか、そして今後グラドルが生き残る道は?次項以降では90年代、00年代、10年代のグラビアアイドルシーンの歴史を解説。その上で今後のシーンの可能性を探って行く。
●グラドル勃興期の90年代
【代表的なグラドル】
雛形あきこ、かとうれいこ、細川ふみえ、青木裕子、山田まりや、矢部美穂、優香、広末涼子
この時代にブレイクしたのが、かとうれいこと細川ふみえ。いずれも今でいう「グラビアアイドル」の範疇での活動だったが、当時はその言葉は定着しておらず「セクシーアイドル」と呼ばれていた。グラドルというジャンルが成立したのは94年に登場した雛形あきこから。だがその前にグラビア業界の歴史を見通す上で重要な「ヘアヌードブーム」が巻き起こっている。
「発端は91年2月に発売された樋口可南子のヘアヌード写真集から。その後、島田陽子、石田えり、川島なお美らが続きました。中でも宮沢りえの『Santa Fe』は150万部の大ヒットとなり、日本でのタレント写真集の売り上げ記録としていまだに破られていません」(グラビア誌編集者)
そして94 年、コミック誌などの巻頭グラビアから注目を集めたのが前述の雛形あきこだ。
「前屈みになり胸の谷間を両腕で挟んで強調する『雛ポーズ』で大ブレイク。グラドルという言葉が世間的に浸透した時期と重なったことから、彼女は元祖・グラドルともいわれています。またグラドルを入り口としてドラマやバラエティでの活躍を目指す、という典型的なスタイルを完成させたのも彼女です」(前同)
雛形に続いて数多くのグラドルが知名度を上げる中、98年にブレイクした優香。彼女は「癒し系」ともいわれ、この呼称はのちに本上まなみや井川遥らに受け継がれて行く。
こうした水着系、巨乳系グラドルの流れとは別に、96年に広末涼子が大ブレイク。たった1人で雑誌の表紙やグラビアを席巻したことも、見逃せない。
【90年代総括】
グラドルというジャンルが定着した90年代。「水着を着た巨乳のアイドルが谷間をアピール」というグラドルのステレオタイプなイメージが形成された時期でもある。95年には安室奈美恵が大ブレイク。巷にはギャルが溢れ、鈴木紗理奈などのギャル系グラドルが台頭していた。そんな中で現れた広末涼子は、世の男性諸氏にとって待望の存在だった。彼女が大ブレイクすると「ポスト広末涼子」と呼ばれる黒髪ショートカットの清純派アイドルが大量発生。田中麗奈、竹内結子、内山理名、仲根かすみらがその代表的な存在だ。
97年には清純派の最たる存在である”チャイドル”がブームとなり、野村佑香、前田愛、前田亜季、浜丘麻矢らが活躍。ただ一部のファンに愛好されたものの、大きく市場が広がることはなかった。
90年代はギャル系から清純系に移り変わり、最もグラデーションの落差が大きく出た年代。ただ完全に移行したわけではなく、例えばギャル系だった優香が癒し系アイドルに化けたように、清純という概念を取り込む、という形だった。これは99年に『LOVEマシーン』でブレイクしたモーニング娘。にも受け継がれて行く。
●すでに明日はなかった!? 00年代
【代表的なグラドル】
ほしのあき、若槻千夏、インリン・オブ・ジョイトイ、MEGUMI、仲村みう、井川遥、小倉優子、南明奈
上記のグラドルのほか、熊田曜子、安めぐみ、森下千里、優木まおみ、佐藤江梨子、井上和香、眞鍋かをり、安田美沙子など、数々のグラドルが成功を収めた00年代。そしてそのほとんどはグラビアを足掛かりにバラエティ番組に進出し、そこでのポジションも確立した、という経路を辿っているのが特徴だ。また手ブラやTバックなど、着衣の状態でありながら限界まで肌を露出する手法「着エロ」が02年辺りから登場。インリン・オブ・ジョイトイがその先駆者として知名度を上げた。更に05年に入り着エロは低年齢層に波及、仲村みうに代表される「過激ジュニアアイドルDVDブーム」へと繋がって行く。
しかしどれだけグラドル界が盛り上がっていても、「グラドル」が職業として成立していたかは怪しいようだ。
「雑誌グラビアのギャラは、人気がトップの子で10万。普通は数万程度で、なしというところもあるほどです。あくまで雑誌は顔を売るための宣伝の場なんですね。それに、どれだけ働いても定額の給料制という事務所も多い。かなり有名なのに月給7万しか貰えず、親からの仕送りで生活していた子もいたと聞きます。それに歩合制だとしても、事務所に嘘をつかれて、小額のギャラの場合も。もちろん、グラビアだけで生活できた子がいなかったわけではありませんが、それはほんの一握りだけです」(DVD制作会社社員)
加えて「バラエティ番組のギャラも、新人なら3万程度」らしく。09年にAKB48がグラビア界を席巻したが、実はそれ以前からグラドルに「明日はない」状態だったのかもしれない。
【00年代総括】
00年代に最もエポックなグラドルだったのはほしのあきだろう。グラドル特集が掲載されたサブカル誌『クイックジャパン vol.68』(太田出版、06年10月発売)の表紙を飾り、00年代を代表するグラドルとして登場。彼女のブレイクにより、「アラサーグラドル」の存在が世間に認知され、それまで20台中盤までだったグラドルの寿命を大幅に延ばした、といわれている。実際今でも、優木まおみや山本梓など、数々のアラサーグラドルが現役でグラドル活動を続けている状態だ。
しかしこのグラドルの高齢化は、着エロや「妄撮(編集加工により『破り取られた服の下の下着姿を見せる』というアイディアが人気のグラビアシリーズ)」のようなフェチシズムから来るグラビアの多様化には含まない、と見る向きがある。単純に雛形あきこでグラドルに目覚めた当時中高生だった世代が、そのまま成長し「30歳くらいもアリになった」だけではないか、という意見だ。つまりファン層が全く変化していない、ということ。真偽は不明だが、縮小を続ける雑誌業界を見れば、あながち間違っているとはいえない指摘ではないだろうか。
●システムの破たんを迎えた10年代
【代表的なグラドル】
吉木りさ、篠崎愛、大島優子、柏木由紀、武井咲、杉原杏璃、小池里奈、うしじまいい肉
出版不況により、雑誌の休刊が続く10年代。そんな中、AKB48の雑誌グラビアへの露出は止まらない。しかし出版社にとっては「AKBが出ていれば売り上げ部数の減少を抑えられる」ということでしかないのが実情。当然、写真集やDVDの予算も落ちている。
「例えばグラドルの需要がまだ高かった03年の状況でいえば、写真集とDVDの予算を合わせて300万円。2週間ハワイに行き、4日間の撮影以外は全て観光、という豪華さでした。ところが今では合わせて100万円。朝ハワイに着いたらすぐに撮影に入り、夜22時の便でタレントは日本へ直帰します。さらにスタッフは現地に残り、翌朝日本から新しくやって来たタレントの撮影を開始、スタッフの交通費を浮かせます」(DVD制作会社社員)
販売数に関してはどうだろうか。
「同じく03年では、写真集は岩佐真悠子などの大人気の子だと1万冊を越える冊数を出していました。今なら5、6000冊売れればヒット扱いです。DVDに関しても当時は1万枚でヒット、今は2000枚でヒット扱いです」
このグラドル不況の原因は諸説ある。まず社会全体が不況であること、ネットが普及しグラドルの画像及び映像がタダで見れる状況になったこと、アイドル並に可愛いAV女優が多数登場したこと、などだ。これらの理由は、今までのグラドルを生み出し育成するシステムが破綻するに足るもの。しかし、それはシステムの問題であって、現代の潮流にあわせて“再構築”すればグラドルの復権は可能なはずだ。グラビアアイドルというジャンルを存続させるために、グラビア業界は臆することなく新しいアイディアを取り入れて行って欲しい。
【10年代総括】
グラドルが雑誌グラビアや写真集、DVDなどのリリースのみで生活できる時期はごく僅かだ。しかもそれは一握りの売れっ子に限られた話。そう考えると、そもそもグラドルは職業として成立していないのかもしれない。現在、雑誌グラビアはAKB勢にほとんど占拠されている。何故ここまで、AKBのグラビアは支持されているのか。それは「本業が歌手であるアイドルが水着になっているから」だ。このギャップは、美人過ぎる市議・藤川ゆりのように、本来の肩書きがある女性が水着になることに価値がある、ということとイコールだろう。つまり、水着姿が当たり前のグラドルが水着を着ても、もうその価値は低い。では、今後グラドルが生き延びる可能性はどこにあるのだろうか。例えば月刊NEOのように、ネット書店を中心に販売したり、直接書店に商品を卸したりと、取次ぎなどの中間層を挟まないで利益率を上げる方向に作り手は進むべきだろう。あるいは事務所がDVDを作りサイトで告知、ファンに直接通販しても良い。うしじまのように事務所すら介さず、個人で制作の全てをこなすグラドルもあり得るのではないだろうか。
●『月刊シリーズ』の仕掛け人・宮本和英氏 かく語りき
現在のグラビアではタレントとしての表現力がつかない!!
毎月異なる女優やグラドルが登場するムック型グラビア写真集『月刊シリーズ』。98年11月に新潮社から第1号が発刊されて以降、現在も刊行が続く人気のシリーズだ。『月刊~』が画期的だったのは、写真集でありながら規格が「雑誌」であるため書店だけでなく全国のコンビニなどでも販売された点、そして「気鋭の写真家を採用し、従来のアイドルグラビアにアート的撮影手法を融合させた」点にある。結果それまでのアイドルグラビアの購買層を広げ、その後のシーンに大きな影響を与える存在となった。
そんな『月刊~』の立ち上げ当初からの編集長・宮本和英氏に、『月刊~』について、そして今後のグラビア界について、話を聞いた。
--「月刊シリーズ」を立ち上げた経緯を教えて下さい
発刊当初はまだグラビア写真集がそれなりに売れていた時代でした。でも「南の島で水着を着て」という具合に、写真表現としては特徴がなかった。そこで「アート系の写真家がタレントを撮る」というコンセプトを考えました。
ただ、あくまで女性タレントをセクシーに撮る「グラビア」という文脈は捨てないように、“抜き”と“アート”のバランスは配慮しましたね。僕はよくアートディレクターに言っています。「抑えるところ抑えたら後はどんなにアートしちゃっても構わない」と。
--当初の周囲の反応は?
ほぼ完売するような状況が続いたため、類似誌がたくさん出ましたね(笑)。そして秋吉久美子さんを始め、タレント側から多数のオファーが届きました。タレントも「これはカッコイイから出れば自分にとってプラスになる」と思ってくれたんでしょうね。
--けれど宮本さんは昨年末で新潮社を退社されています。
出版不況が続き、組織の中では新しいことに挑戦できなくなったんですね。元々社内ではなく、外部のクリエーターとチームを組んで作っていたので、だったら独立しようと。新しい月刊シリーズでは、向井理や窪塚洋介など、男性モデルを女性目線でセクシーに撮る『月刊MENシリーズ』を制作しています。他には動画作品や電子書籍も出して行きます。とにかく「撮り下ろしの現場」を作ることが何よりも大事だと考えています。場さえ作れば、そこから紙、ネット、動画など、様々なコンテンツを生むことができるからです。
--宮本さんから見てグラビア不況の理由は何だと思いますか?
グラビアを入り口として成功するタレントが余りに少ないですよね。原因はCM出演をタレントのゴールに設定する、事務所側にあります。CMが一本決まれば、映画やドラマに出る何倍ものギャラが入ります。けれどCM契約を意識し過ぎる余り、例えば「映画でヌードになれない」「特定の家電を小道具に使えない」といった状況が生じる。それではタレントとしての表現力がつかないですよ。
--今後のグラビア界はどうなって行くと思われますか?
基本的にグラビアはネットに収斂され、アーカイブ化して行く流れでしょう。モデルに関していえば、ネットを使えば芸能界に入らずとも人気を獲得できる状況です。例えばコスプレイヤーのうしじまさんのようにね。タレントと素人との境目はどんどんなくなって行くでしょうね。
宮本和英(みやもと・かずひで)
新潮社にて『月刊シリーズ』の他、ローティーン向け雑誌『nicola』やストリートカルチャーに根差した写真投稿誌『アウフォト』を創刊するなどした敏腕編集者。現在は㈱Mファクトリー代表として、新たな月刊シリーズの刊行と、会員制電子写真集サイト「月刊デジタルファクトリー」を運営している。
http://digital-gekkan.jp
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